解雇という処遇が会社に与えるリスクは、多くのメディアから発信されています。
当事務所も基本的に解雇は回避するコンサルをしています。
普通解雇でさえハードルが高いのに、パワハラによる懲戒解雇が有効とされた判例(Y社事件、東京地裁平成28年11月16日)があります。
事件の概略
会社には、従業員からの相談窓口が設置されていて、パワハラ被害の相談が持ち込まれました。
パワハラの内容は、人格否定、プライバシー侵害、罵声(アホ、クビ、辞めてしまえ)などです。
会社は事実確認の上で、パワハラ加害者の上司を厳重注意し、顛末書を書かせ、会社のコンプライアンス方針を示し、アドバイスもしました。
しかし約1年後にまた同じ上司によるパワハラ被害があり、被害者は同一上司の部下複数人に及びました。
上司の面談、その後懲罰委員会を経て「懲戒解雇又は諭旨退職処分相当」と決定しました。
判例は、その加害上司が解雇無効を訴えたものですが、結果は請求棄却です。
当サイトが注目するのは、解雇の相当性が評価されたポイントです。
会社は、1度目のパワハラに対して厳重注意をしています。
それは形式的なものではなく、本人の認識を確実にする目的で注意内容をメールでもフォローし、会社のコンプライアンス方針やパワハラ資料を示して注意喚起していました。
そして短期間のうちに2度目のパワハラが発覚して、異動や休職者を出しました。加害上司に反省の色はありません。(1年強の期間を「短期間」と表現している点も参考になります)
就業規則には、懲戒処分事由として「けん責処分事由が2回以上繰り返されたとき」という定めがあり、事案はこれに該当すると判断されています。(パワハラ1回目に実際にけん責処分はしていませんが、けん責処分「事由」に2回該当したことでも懲戒できる、という就業規則になっていました)
相談窓口がしっかり機能していて、会社として本気の改善指導をして、それでも2回目のパワハラ被害が発覚、加害上司の行為がもたらした結果は重大で、就業規則に定める懲戒事由に該当し、正しい手続きである懲罰委員会を経て、このまま雇用を継続したら安全な職場環境は維持できないとした会社の判断は、「尊重されるべき」と判示されました。
リスクヘッジとして、上記判例が示すような解雇に至るまでの会社が取ったプロセスは、労務管理の参考になると考えられます。