労働者側からの「解雇された」というご相談について、詳しく伺ってみると、そもそも会社は本当に解雇をしたのかが不明瞭な事案があります。
典型的には、売り言葉に買い言葉で使用者が「出社に及ばず」などと口にしたケースです。
解雇の事実とその理由は、解決手段の選択にも影響するところですから、はじめに特定しておくことが望ましいです。
労働者が不当解雇と訴えているところで、使用者は「解雇はしていない。厳しく注意したら無断欠勤が続いている」という認識でいる場合もあり得ます。このまま解決手段を進めると遠回りになりかねません。
そこで解雇通知書があると良いのですが、例えば「引き続き従業員として勤務させることが不適当と認められるため」などというように、解雇通知書にもあまりはっきりしたことが書かれていない場合が少なくありません。
「A不動産事件」(※1)では解雇通知書に、解雇事由に該当する事実関係は書かれていましたが、「普通解雇」なのか「懲戒解雇」なのか未記載であった上、就業規則上の該当条項の提示もなかったため、「解雇通知書」なのに“解雇の意思表示”とは認められませんでした。
労働者から解雇の事実とその理由を特定する手段としては、退職時等の証明の請求があります。
退職時等の証明は、法(※2)に定められた使用者の義務となっています。使用者がこれに応じなければ罰則(30万円以下の罰金)もあります。また、記載すべき内容が、解釈例規によって次のように示されています。
「『退職の事由』とは、自己都合退職、勧奨退職、解雇、定年退職等労働者が身分を失った事由を示すこと。また、解雇の場合には、当該解雇の理由も「退職の事由」に含まれるものであること。解雇の理由については、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入しなければならない。」(平2.1.29基発45号、平15.12.26基発1226002号)
一方で、「労働者の請求しない事項を記入してはならない」とも定められているので、労働者がこれを請求するときは記載内容も指定するか、使用者側から希望する記載内容を確認すると良いのではないでしょうか。
解雇であるなら、普通解雇なのか懲戒解雇なのか、解雇事由は就業規則の何条何項によるのか、どのような事実関係が就業規則に定められた解雇事由に当てはまるのか、トラブル回避あるいは早期解決のためには、ここまで記載されていることが求められます。
※1:当サイト内「解雇の意思表示はあったか無かったか」参照
※2:労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない。(労働基準法第22条第1項)