新型コロナウィルスの影響が大変な情勢です。
「このままでは、従業員を雇い続けることができない」、という事業所からの相談が多数寄せられています。
経営上の事情から、特に現状のコロナ禍において人員削減が避けられないときは、その前になすべきプロセスがあるのはご存知でしょうか。
経営上必要とされる人員整理のために行う解雇は「整理解雇」と呼ばれ、厳しく制限されています。
以下に、有効な整理解雇の要件を解説します。
後でトラブルになったとき、会社がどんなプロセスを取ってきたがが問われるためです。
1.整理解雇までのプロセス
経営ひっ迫などの事情がある場合であっても、すぐに正社員の解雇ができるわけではありません。
使用者は、雇用継続のために手を尽くすことが求められ、具体的には以下のような取り組みがあります。(1以下は、ほぼ優先順となっていて、「役員報酬の減額」が2番目にきています。経営者が率先して身を切る姿勢がなければ整理解雇はできません。)
解雇回避の努力
- 経費削減
- 役員報酬の減額
- 新規で従業員を雇い入れない
- 残業させない
- 賞与の減額
- 昇給しない
- 配置転換や出向によって何とか雇用を継続する
- 1日あるいは時間単位でも休業する
- 有期契約社員の雇止め
- 希望退職を募る
上記プロセスを飛ばして正社員を整理解雇することはできません。
これらの取り組みをもってしてもなお、やむを得ない人員削減の必要性がある場合、次に行うのは、人選基準を決めることです。
2.解雇対象者の人選基準
誰を整理解雇するか、ここに使用者の恣意的判断が含まれていると、整理解雇は無効となるおそれがあります。
従業員に説明できる合理的な基準(勤続年数、勤怠成績など)を設定します。
3.解雇の手続き
次に必要なプロセスは解雇の手続きです。
経営上の人員削減の必要性、人選基準、解雇までの流れを従業員に説明・協議します。
使用者にとって辛い仕事ですが「もう決まったことだから」などとしてこのプロセスを省略すると、従業員の理解は得られません。
もともと従業員にとって不利益が最も大きい処遇の解雇です。
そのまま強行して、収入の途を奪われた元従業員が会社を訴える等の事案は枚挙に暇がありません。
プロセスを惜しまないことが、労使双方にとって長期的にはメリットになるのです。
解雇回避策としての休業
1.使用者の責めに帰すべき休業
前述1-8で解雇回避の努力として「休業」を挙げました。
この「休業」とは、労働者が働けるのに使用者の責任で休みにすることなので、休業手当の支払い義務が使用者に生じます。
それでは、現状のコロナ禍における休業は、休業手当が必要になるのでしょうか。
休業手当の必要な休業事由としては、一般的に「機械の検査、原料の不足、流通機構の不円滑による資材入手難、監督官庁の勧告による操業停止、親会社の経営難のための資金・資材の獲得困難」※が考えられます。
労働者の生活保障の観点から、使用者責任は広く当てはまると解されます。
新型コロナウィルスの影響があっての例えば「原料の不足」であっても、「使用者の支配領域に近いところ」※で生じた原因のため、休業手当は必要と考えられます。
反対に、感染して自宅待機指示が出された従業員は、そもそも働くことができないので休業手当は発生しません。同様に、普通に働くことができない健康状態の従業員に、使用者から休むように言っても使用者責任の休業には当たりません。
このような場合は、欠勤あるいは本人の希望を尊重した有休消化で処理して問題ありません。
2.休業手当の計算方法
休業手当の支払いが必要な休業をしたとき、実際にいくら支給しなければならないのでしょうか。
休業手当の最低ラインは、平均賃金の60%と定められています。
平均賃金は、直近3ヶ月間の賃金総額(通勤手当も含まれます)をその間の暦日数で除した日額のことです。
平均賃金の計算が必要になった時点で、直前の賃金締切日から3か月分の賃金合計を使います。
【例】平均賃金の計算が必要になった時点を6月4日、賃金締切日を毎月20日とすると、
5月20日〆分の賃金:基本給20万円 通勤手当1万円 総支給額21万円
4月20日〆分の賃金:基本給20万円 残業手当2万円 通勤手当1万円 総支給額23万円
3月20日〆分の賃金:基本給20万円 残業手当1万円 通勤手当1万円 総支給額22万円
→平均賃金は(21万円+23万円+22万円)÷(30日+31日+28日)=7,415.73円
※1銭未満の端数は切り捨て
休業手当は、この日額の6割以上を、休業1日に対して支給します。
法律上は、「6割以上」と定められているので、6割とするか、8割あるいは10割とするか、労使間で協定を締結します。
3.雇用調整助成金
休業手当を支給しながら休業を実施することで、会社は、国からの助成を受けることができます。
この雇用調整助成金を活用することも、前述の「解雇回避の努力」に当たります。
現状のコロナ禍において、受給要件は緩和されていますので、ぜひご活用下さい。当事務所においても申請手続きをお手伝い致します。
手続きが簡素化されたといっても、もともと労務管理が進んでいなかった小規模企業においては、難しい書類があるかもしれません。
しかし、そのような小規模企業ほど助成金を必要としている現状ですから、社会保険労務士としてはぜひお役に立ちたい思いです。
【補足】
賃金請求権の時効が3年に延長されました。
これまでの労使紛争は、未払い賃金等が2年まで遡って請求されてきましたが、今後は3年分が請求され、認められれば支払い義務が生じることになります。
労働者一人の3年分の未払い賃金は、企業の存続すら揺るがす高額債務となる可能性があります。
トラブルの火種となる違法な給与計算や労務管理施策は、ますます厳しく規制されていくことになります。
※菅野和夫著「労働法」第11版補正版より