例えば、業務手当や役職手当など、名称は何でもよいのです。
“○○手当”を残業代として、実際の残業時間にかかわらず、毎月決まった金額を支給する賃金体系をとっている会社は少なくありません。
これは、正しく運用されている限り違法ではありません。
この定額残業代が認められるかどうかについて、これまでと違う最高裁判決がH30年7月19日に出されました。
これまでは、定額残業代が争われたとき(定額残業代を払っていれば、割増賃金を適法に支給したことになるかどうか)、以下の要件が問われました。
- 何時間分の残業代に相当するのか明示し、定額残業代を超える残業をしたときは、従業員がそれを判別できる
- 1の場合にその都度差額が精算されている
- 定額残業代の導入によって、根拠もなく極端に基本給が下げられていない
- 長時間残業の温床になるような要因がない
しかし、最新の判決では、上記1と2は必須ではない、と判示されました。ただし、以下の点も求められることになります。
(1)“○○手当”が定額残業代であることをしっかり規程に定めて従業員にもよく説明すること
(2)実際の残業実態とかけ離れた残業時間を設定しないこと
実務においては、「何時間分の残業代に相当するものか明示することが必須要件ではなくなった」からといって、定額残業代に相当する残業時間数を明示しなくてもよいか?といえば、そのようには考えられません。
上記判決によれば、訴えた従業員は薬剤師で、昼の休憩150分のうち30分間業務に従事していましたが、これが労働時間として管理されていませんでした。
給与明細書の残業時間数や時給単価は、空欄になっていました。
在職15ヶ月弱のうち、入社して間もなく休憩時間に仕事をするようになったようです。
もしかしたら、これを不満に思ったことが従業員を訴訟へ動機付けたのかもしれません。
他の従業員が交わしている「採用条件確認書」(おそらく雇用契約書や労働条件明示書に代わるもの)も、訴えた従業員の分はないということですから、この従業員は、不公正感から署名を拒んだのでしょうか。
休憩時間中の就労がどうしても必要なら、休憩を交代で取るなどの対策が考えられます※。
その上で、やはり、上記1~4に加え、(1)および(2)も満たす運用を行い従業員の納得を促すことが大事です。
なぜ大事かというと、裁判で勝つことが労務管理の目的ではありませんし、トラブルになった時点で企業にとっては損失なのですから、面倒なプロセスを省略して、もっと面倒なことにならないためです。
そして、従業員の納得と合意は、パフォーマンス向上や責任感の醸成のためにも省略するべきではないのです。
※~休憩は本来、一斉に与えなければならないことになっています。そうしないときは、一斉休憩適用除外の労使協定が必要です。