あっせん事案の内容は、数年前は「雇用終了」が7割以上を占めていました。
「雇用終了」には、「解雇」、「退職勧奨」、「雇止め」、「自己都合退職」などが含まれます。
これらには、「地位確認」(まだ従業員の立場にあるから賃金が発生している)主張がセットになって、請求金額の根拠は賃金をベースに算出することができました。
現在は、「雇用終了」を上回って「いじめ・嫌がらせ」がトップになっています(厚生労働省Press release平成29年6月16日)。
パワハラが大きなニュースになったことに加え、事実認定(基礎となる事実があったかどうかの判断)をしないあっせん手続きにパワハラ案件は乗せやすい、・・のかもしれません。
しかし、以下のような内容は、あっせんで取り扱うことができません。
- 従業員同士のいじめ及び相手方従業員に損害賠償等を求めるもの
- 加害者に処罰を求めるもの
「いじめ・嫌がらせ」案件が最多となっている点、実際には、パワハラによる職場環境悪化を使用者責任とする損害賠償、指導教育の範囲を逸脱した行為の是正、謝罪などが求められています。
合意成立は、あっせん全体の割合と大きな差はなく3割程度、謝罪について合意されることはほとんどなく、和解金は半数以上の事案で、30万円未満となっています。パワハラであっせんをお考えの方は、解決手段の選択にご参考下さい。(データは、文中に記載したもの以外は、労働政策研究報告書No.174(2015)及びNo.123(2010)に基づきます)
ところで「いじめ・嫌がらせ」事案のなかには、客観的にいじめとは思われない内容も含まれているといわれます。
しかし、ハラスメントは、行為をされた従業員の受け止め方に差があるもので、一概に線引きできることではありません。
※労働政策研究報告書No.123は、「(受け止め方の個人差は)通常の人間関係にも必要な技術である・・・使用者は、(それを)想定した対応が必要となろう」としています。
いかがでしょうか。使用者側から、「そんなことまでやっていられない」という声が聞こえてきそうです。
ここで、従業員が紛争解決手段(あっせん、裁判問わず)に訴える心理は、その従業員が組織から受けた“扱い”に対する反応(「報復」とすると分かりやすい)である、という研究があります。
実際に私が関与した事案の従業員も「くやしかった気持ちを(会社に)伝えたい」といって相談にみえました。
会社側は、パワハラの事実に関わらず、禍根を残す退職者を出すこと自体にリスクがあると言えます。
ひとたび紛争となれば、事業活動に支障を来たすことになり、会社としてはやはり対策をしないわけにはいかない、ということだと思います。
パワーハラスメントとは
パワーハラスメントは、「職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。(厚生労働省ワーキンググループ報告)
「職場」とは、取引先や出張中、移動中も含む従業員が業務を遂行する場所のことです。
「優位性」は、役職の上下だけではなく、対取引先や能力・知識・技術の差、雇用形態の違い(例:正社員と派遣社員)などが含まれます。
「適正な範囲を超え」は、客観的な業務上の必要性、行為がなされた時間・回数・場所・態様などから判断されます。