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休職期間満了による退職

私傷病による休職が一定期間続くと、会社はその従業員に休職命令を出して、療養に専念してもらうことがあります。

休職については、会社によって様々な定めがあり、一般的には、休職期間が満了してもなお、復職できないときは自然退職とされることが多いようです。

今回は、順調に復職手続きが進んでいるかにみえた矢先、会社から指示がないまま復職予定日を過ぎ、ついに休職期間満了日も過ぎて退職扱いとなった事例をみていきます。

概要

運送業のY社にドライバーとして期間の定めなく雇用されている従業員Xは、胃がんの手術をして、療養開始から6か月後に就業規則の定める休職期間に入りました。

休職期間満了の2ヶ月前、Xは、Y社に対して、主治医による「仕事復帰可能」との診断書を添えて9月23日からの復職を申し出ました。

Y社は、復職の申し出を受けてから2週間後にXを出社させ、「はじめは半日勤務などで徐々に体を慣らして、一人前の仕事ができると判断してから通常勤務をやってもらうことを考えている」、などと伝えました。

その2日後、Y社は、産業医およびⅩの主治医と面談※1をしたところ、Ⅹの主治医から「本人が強く希望したので入院期間が長くなったが、本来ならもっと早く復職できたと思う。」という意見を聞きました。

Xは、その後指示がないまま、復職希望日が過ぎてしまい、ユニオンを通じてY社に対し、職場復帰の時期、所属、業務についての説明を求めましたが、休職期間満了の2週間前に、「復帰は不可能と結論したので休職期間満了日をもって退職」、とY社から通告されました。

Xは、退職扱いは違法無効であると主張して提訴しました。

結果は、退職扱いは無効、休職期間満了日の翌日からの未払い賃金と慰謝料30万円が認められました。

上記事例は、名港陸運事件(名古屋地裁 平成30年1月31日判決)です。

退職が無効との判決は、診断書の内容のほか、症状・治療の経過、Xの業務内容やその負担の程度、主治医や産業医の意見を総合的・客観的に判断し、休職期間満了日の時点では、日常生活に支障がないというだけでなく、1日8時間労働なら「従来の業務を健康時と同様に遂行できる程度に回復」しており休職事由は消滅していた(つまり復職できる状態だった)と認められたためです。

しかし、当サイトは、退職無効による未払い賃金のほかに、慰謝料が認められた根拠に着目します。

慰謝料が認められた理由

当初、Y社は“試し出勤”※2を提案するなど、Xの職場復帰を認める方向の発言をしていました。ところが、主治医の(復職時期に疑問を呈する)意見をきいて唐突に方向を変えます。

Y社は、

  1. ユニオンからの説明要求にも応じず
  2. 改めてXと面談をしたり、Y社指定の医師への受診を命じることもなく

Xを退職扱いとしました。

上記1と2が「手続き的な相当性に著しく欠ける」といわれ、不法行為に当たり慰謝料が課されたのでした。

この「手続き」とは何でしょうか。

手続きとは、官公署に提出する書類のことだけではなく、会社内で使用者が従業員を処遇するときの“プロセス”も、重要な「手続き」です。

Y社は、その手続きを概略次のように就業規則で定めていました。

(休職期間満了時の手続き)
1項 休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合、自然退職とする。
2項 従業員は、私傷病休職事由が消滅して復職を申し出る場合、医師の診断書を提出しなければならない。
3項 会社が診断書を作成した医師に面談を求めた場合、従業員はその実現に協力しなければならない。
4項 診断書が提出された場合でも、会社が指定する医師への受診を命じることがある。

上記2の裁判所の指摘は、就業規則4項を受けてのことです。自社で定めた就業規則には、使用者も拘束されます。

人事権は使用者にあるといっても無条件に行使できるわけではありません。従業員に何か処遇を行うときには、根拠を示し、弁明の機会を与え、納得を促す説明ができなければ、権利濫用のリスクが浮上します。

手続きに不備があれば、処遇自体が無効になることもあるのです。

しかし、逆をいえば、就業規則に則り、丁寧な手続きを採用することで回避できる紛争は少なくないのです。

背景

Xは私傷病につき、休職期間中は傷病手当金を受給していました。Ⅹの主治医の診療録には、「(検査目的の再入院は2週間程度であるところ、本人の希望で約4ヶ月に及んだことについて)入院の意義がない。

かんぐりすぎであると思うが、傷病手当金を不正に受給するために嘘の訴えをしている節がある」と記載されていました。

傷病手当金の不正受給疑惑について、裁判所の判断は、「(疑いはあるものの)意図的に入院治療や自宅療養を引き延ばして欠勤してきたとまでは認め難く」となっています。

補足

※1:主治医の診断書は、患者の希望が最大限に尊重された内容になっている可能性があります。一方、産業医の意見は、会社側が復職を判断するために必要な情報を得るために求めるものです。

※2:試し出勤は、長期休業していた労働者の円滑な復職を支援するために、勤務時間や勤務日数を短縮して体を慣らす、また完全な復職が可能かどうかの見極め等の意味があります。労働者にとっても会社にとっても不安の解消につながる制度ですが、制度を設ける法的義務はありません。

従業員側から見たコメント

傷病手当金は、療養のため働くことができない間、最長1年6か月受給することができます。

また、被保険者期間が1年以上あれば、在職中に受給していた傷病手当金を退職後も継続受給することができます。その場合、雇用保険からの基本手当(いわゆる失業手当)は、傷病手当金と合わせて受給することはできません。ただし、基本手当は、本来退職してから1年間のうちに受給しなければならないところ、療養等で働くことができないときは、最大3年まで受給期間の延長を申請することができます。

会社側から見たコメント

慰謝料の30万円は、高額というほどではないかもしれません。

しかし、訴訟の契機は、ここにあったとは考えられないでしょうか。

Y社は、主治医の意見によって、「Xは、不当に休職を長引かせているのではないか」という疑念から、職場復帰にストップをかけたことが伺われます。

むしろ、主治医からきいた意見をXに確認してみたらどうなっていたしょうか。

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