具体的には、このような事案です。
まず、使用者から労働条件変更の申し入れがあります。
- 遠方勤務地へ異動
- 管理部門から製造部門へ異動、それに伴う手当の減額
- 正社員からパートへ変更
- 月給から時給へ変更
↓
労働者がその労働条件変更を拒否します。
↓
その結果、解雇または(退職を迫られて)自己都合退職。
指示に従わないことへの制裁や、業務命令違反に対する懲戒などの形を取ることもありますが、業務命令であっても、無制限にできるわけではありません。
このような事案が紛争になった場合は、労働条件変更申し入れの“本質”が問われます。
つまり、以下の点については、いかがでしたでしょうか。
- 業務上の必要性はどの程度あったか
- 変更を受け入れた場合の従業員が被る不利益はどの程度か
- 不当な動機、目的はなかったか
- その他、個別の雇用契約内容に反していないか等
そして、紛争に発展する多くのケースは、「3」が疑われたときです。
当事務所にみえる労働者側相談者は、「(自分を)辞めさせようとして、そんなこと(労働条件変更)を言っている」と仰います。
本当に業務上の理由からの労働条件変更であるなら、上記のような疑いを招かないためにも説明責任を果たすほうが、人事を前に進めることができるのではないでしょうか。
はじめから労働条件変更か退職かを二者択一とするケースもあります。
「日本の雇用紛争」(濱口桂一郎著)に次のような実際のあっせん事案が掲載されています。
「従業員:遠方の店に異動するか退職せよと言われ退職した/会社側:タイムカードを不正打刻するなど勤務態度が悪く、本来即刻解雇(のところを異動という選択肢を提案した)」。
このような事案は、労働法があまり浸透していない組織に発生している側面があり、解雇通告と変わらないリスクを伴っていると考えられます。
なお、タイムカードの不正打刻について、就業規則に定めがある場合は、懲戒処分行為に当たります。
しかし1回の行為だけで解雇すると、「解雇権濫用」(によって無効)と判断される可能性があります。
事実確認をして、本人の言い分を聞いて、相応な処分を検討するプロセスは面倒なものかもしれません。
しかし、紛争防止、不正の抑止、従業員の定着のためには大切です。(「従業員の定着」との関係は、別の機会に掲載致します)