労働政策研究報告書№123(以下、「報告書№123」とする)は、ある4カ所の労働局のあっせん事案のうち、雇用終了※1事案について、「何が理由で雇用終了に至ったのか」を分類し、以下の類型を示しています。(19類型のうち件数の多い順に上位11類型を抜粋)
- 経営上の理由
- 態度(命令拒否、業務遂行上の態度、職場のトラブル、顧客とのトラブル、遅刻・欠勤、休み、不平不満、相性、その他)
- 能力(個別具体的な職務能力、成果主義、仕事上のミス、一般的能力不足、不向き)
- 傷病(労働災害、私的負傷、慢性疾患、精神疾患、体調不良、家族の傷病)
- 準解雇(形式的には自己都合退職であるが、使用者側の行為によって労働者が退職に追い込まれたもの)(いじめ・嫌がらせ、労働条件変更、職場トラブル、その他)
- 非行(背任行為、業務上の事故、仕事上の金銭トラブル、職場の窃盗、職場の暴力、いじめ・セクハラ、業務上の不品行、経歴詐称)
- 労働条件変更への拒否(配転、賃金その他の労働条件、雇用上の地位変更)
- 労働者のボイス※2への制裁(抗議、社会正義、企業経営への意見、その他)
- 変更解約告知(不利益変更と雇用終了の選択を提示して雇用終了に至ったもの)
- コミュニケーション不全
- 労働法上の正当な権利行使への制裁
類型は、例えば解雇無効などを争う事案であっても、“使用者がどうして解雇しようとしたか”、に着目しています。
件数で最も多いのは、「1.経営上の理由」となっています。
しかし、これはある1社の労働者による集団的な(ほぼ)同時申請が含まれていて、これを1件にまとめると、最多事案は「2.態度」、次に「1.経営上の理由」となります。
件数の最も多い「態度」に分類されたあっせん事案は、その大部分が不参加や打ち切りとなっています。
その理由を報告書№123は、「使用者側に正当性があるという感覚が強いためではないか」として、以下のように続けています。
「内容的に雇用終了を正当化するまでの悪質さが労働者側にあるかどうかはかなり疑問であり、おそらく裁判になれば社会的相当性がないとして解雇無効となる可能性が高いケースが多いように思われる。」
あっせんを蹴った事案が、裁判手続きに移行したときの結末を予見させます。
事案の具体例
事案の具体例をみると、「指導に従わないので普通解雇」や「指示に従わないので退職勧奨」などとあります。
(解雇とは、そのようにすぐにできる処遇ではないのですが、どうしても従業員の態度から解雇を避けられないとお考えのときは、解雇通告の前に、少なくとも取って頂きたいプロセスがあります(「懲戒解雇」参照)。)
詳細は不明ですが、これらの事例から紛争防止のヒントを得るとすれば、労務管理上で次のような検証を行うことです。
- 採用時の人選はよく吟味されたか
- 指導・指示は適切な内容だったか
- 従業員が指示に従わないという態度に出るような別の原因は考えられないか(従業員が使用者や組織に対して悪いことをするのは、それ以前にその従業員が使用者や組織から不公正な処遇を受けたからだ、という考え方が実証研究から導出されています。(「荒廃する職場/反逆する従業員」田中堅一郎著より))
これらを検証することは、再発防止に留まらず、働きやすい職場の実現にもつながっています。
※1~解雇、雇止め、退職勧奨、自己都合退職などを含む
※2~「発言」、「意見」
上記類型の各テーマについては、今後のコンテンツで触れていきたいと思います。